「下回っています」でやる気は出ますか？（999/1000）

今よく流れているApple WatchのCM、見たことありますか？これです

　初めてこのCMを耳にしたときに「なんか嫌だな」と私は思いました。さてなにが嫌なのでしょう、と見直してみると、ここだとわかりました。12秒あたりの「下回っています（Apple Watchさんの声）」「昨日より遅いよ（走っている自分の声）」のところです。

　私がいただく講演の依頼では「やる気を引き出す声の掛け方」というテーマがとても多いです。来場くださる方の特性に合わせて切り口は変えますが「どう言えばやる気が出ますか？」と聞かれて一言で答えるととしたら「できること、できたこと、よかったことに注目させましょう」と答えます。これは本にも書いたつよつよメソッドの大事ベスト2に入るのに、本当になかなかできないことなのです（自然にできるようになるレッスン、本に入ってます）。特に日本人は苦手とする人が多いかもしれません。

　最近は変わりつつある、変わろうとしている人もいるとは思いますが、日本の教育は概ね「長所を伸ばす」よりも「できないことを埋めていく」ということを重要視しています。ギフテッドな子どもに対するプログラムが一般的でないところからもわかるかと思います。もともと生き物としての人間は、危険を察知することが生きていく上で大切なことでした。危ないところ＝欠けたところに注目してしまう人類のクセが、そのまま今も残っていると言えます。欧米などでは「意識して」長所に目を向ける社会を作っていったのでしょう。社会的には仕組みを整えることで、ひとりひとりが「欠点を意識せずとも生きていける」ようにしていった、と言えるのではないかと思います。

　話を戻して、このCM。これ、私のように「嫌だ」と思う人は少ないとしても、世界共通で「ん？」と引っかかる人は多いだろうと思うので、上手なCMなんだろうなあと思いました。日本人なら「親切だな」「かゆいところに手が届いた」と感じる人もいるかもしれません。欧米の人なら、なぜできていないことをわざわざ言うの？と引っかかると思うんです。
　CMでフックを作るならこれはとても上手な作り方ですが、Apple Watchを日々使う立場からすると、「下回っています」と言われてドキッとしてペースを上げるよりも、「もう少しペースを上げることはできますか？」なんて言ってもらって調整する方が気分が良くないですか？　また、自分自身は「昨日より遅い」ではなく「昨日も今日もランニングをした」とか「もっとスピードを上げられたらいいな」とか「違うコースも走ってみたいな」みたいなことに視線を向けるといいのでは、と思います。

　Appleさんなので、きっとNLPを使える人やコーチが社内にいると思います。CMやスピーチにNLPの知見が生かされているという分かりやすい事例でした。

何より最後の
君が、夢を、見てる、あいだに
これはめちゃくちゃヒプノセラピーっぽいです（欲を言うと「見てる」ではなく「見ている」の方がいい）。無意識にしっかりとメッセージを届ける手法です。上手い、というか、怖いと紙一重！笑